生き物の死にざま(草思社文庫)
生物はどうやって死ぬのか。
衝撃的なテーマのこの作品は生物の死について、ドラマチックに、時に詩的に語られた作品です。
正直虫全般が苦手な身としては冒頭のセミからハサミムシと続いていくところに不安を覚えました。
これ、昆虫がテーマの本だっけ?
そう、不安になっていると、続いてサケの章がきます。
この作品は様々な生き物の死、というかその生涯について語られます。
時に自然死ではなく、人間の介入によって起きてしまう死。人間が居なければもう少し長く生きられたのではないかと思ってしまうような生物も多く存在します。
唐突に叩き潰されて生涯を閉じる蚊などは不運な彼女に焦点を当てた興味深い章です。
育児をする生き物、産みっぱなしで親が命を落としてしまう生き物。様々な生き物が存在します。
生物の死について語るにはその生涯を語らなくてはいけないのだと、様々なその生命がどう生まれ、どう生き、どう終わるのか。壮大な物語がぎゅっと凝縮されて小さな章に纏められています。
特に興味深かったのは不老=不死ではないという部分で、ベニクラゲ(VOCALOID4LUMiのモデルでもある)は死に到達すると若返ってループするけれど、唐突に他の生物の胃に収まれば消滅してしまう。だとか、ハダカデバネズミは老衰は存在しないけれど病気や事故では死ぬ。なんて話はまさに不老=長寿にもならないという象徴のようなものだなと思いました。
昔から多くの権力者が目指した不老不死というのは老衰にはならないけれど、唐突な死には太刀打ち出来ないということなのかもしれません。
もう一つ、昔から疑問だった「虫はなぜ腹を上にして死ぬのか」という謎は、冒頭の章、セミの死でその答えが記されていました。
こういう本を読むと思うのが、生理的に苦手な生き物(主に虫)などに対しても、好奇心は持ち合わせていて、その生き物についての知識を吸収することは出来るのだなと。苦手だからといって完全に全てを拒絶するわけではないのだと感じました。
勿論、その生涯について知ったからといって、家の中に侵入してきたそれらの生物に対して寛容になり、無駄な殺生をしないかと言えば……容赦なく駆除するとは思いますが……。
彼らには彼らなりの生き残り戦略と、生存の為の苦労があるのだと思うと外にいるものをわざわざ駆除をしない程度の気持ちにはなれるのかなと思いました。