水車館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)
感想を書く順番が前後してしまいましたが、シリーズ順番通りに読み進めました。
館シリーズ第二弾。主人公は車椅子の男性です。
家主が車椅子生活なのでエレベーターもある、水車付きの立派な館というイメージでしょうか。客室も多い構造なのでとても大きな建造物を想像しました。
今作は過去に起きた事件と現在起こっている事件が交互に描かれ、二つの時系列が同時進行で進んでいるような形式になっています。
注意深く読まないと時系列がごちゃごちゃになってしまいそうです。
そして前作でも登場した島田(どうやらシリーズの主人公らしい)が登場するのですが、来客嫌いの水車館主に宿泊許可を得るなど強引で行動力のある人間として描かれているのが興味深く思いました。
外界から遮断された美少女(と呼ぶにはやや年齢が高い気もする)と男達の関係性はやや昼ドラチックな展開になったり主人公の心情の変化、特に劣等感に纏わるものは気持ち悪いほど丁寧に描かれているように感じました。
今回の作品は芸術家と絵画が重要なポイントになっては来るのですが、小説の描写では絵画そのものを見ることができないのがとても残念に思うほど、好奇心が刺激される描写です。
あまり書くとネタバレになってしまうのですが、ラストの作品は本当に衝撃で、存在しない実物を見てみたい。と思わずにはいられません。
登場人物それぞれの絵画に対する思いや、芸術で生きることの難しさなども描かれており、犯人の背景を考えるととても納得できてしまいそうに感じました。
が、ミステリの犯人はどうしてこうも忙しいのでしょうか。
忙しさ、気合い、執念。よくそこまでやったな。と今回の犯人に対しては今まで読んだミステリの中でも特に気合いの入った、思い切ったことをする人物だと思いました。
そこまでしなくてはいけなかった背景などを考えると胸が苦しくなるほどです。
ミステリにありがちなこの人死ぬ必要あった? なんて人もいたりして、全体を通すとモヤモヤしたり悲しくなったりもするのですが、最後の最後で思わず切なくなってしまった場面もあるので人間ドラマ的には好きな作品です。
犯人像は途中である程度予測が付いてしまいましたが、ここまでやったかと思うといっそすがすがしくさえ感じられたので、今回の犯人はわりと推せる印象でした。(あまり犯人について語るとネタバレになると思うので自重します)