ROSEの読書感想文

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腹を割ったら血が出るだけさ(双葉社)

 
 タイトルインパクトが凄すぎて発売直後に購入したのにやっと読み終わった一冊です。
 以前別作品を読んだ際に会話のテンポとタイトルセンスの良い作者さんだなと思ったのですが、今作も会話のテンポが非常によかったと思います。
 
 が、今作は複数の登場人物の視点が頻繁に入れ替わり読むのがやや疲れました。
 主人公(たぶん)の女子高生をはじめ、視点が切り替わる登場人物達はそれぞれ少し形は違えども他人の視線を気にしすぎる、他人からの評価を気にしすぎる人達で、そう言った部分も読んでいて疲れてしまう描写でした。
 
 書店でアルバイトをする主人公(たぶん)な女子高生は他人から「愛されたい」欲求が強すぎる子で、常に相手のリアクションを気にして「気に入られる」「愛される」行動ばかりを選択するという非常に人生が大変そうな人物である上に、『少女のマーチ』という小説(作中作)を人生の軸にして、小説の中に登場する人物とそっくり(と思い込んでいる)な他人にいきなり声をかけ付き纏っていくような行動力のある子です。
 
 小説の中の登場人物にそっくりと言われる「あい」はフェミニンな装いの男性で、他人と本音で付き合いたがる人ですが、これも「裏表を嫌う」というか、他人からの反応を気にする軸ですね。
 
 更に映画になった『少女のマーチ』の主題歌を担当するアイドルグループの一人もファンや周囲の人間からどう見られるのか、徹底的に管理した自分以外を見せたくない、全てはシナリオ通りに動いて欲しい人間でこれまた生きるのが辛そう。
 
 そしてダメおしとでもいうのか、主人公(たぶん)な女子高生の幼馴染みはクラスでややいじめられている(といってもあからさまな過激描写ではない)が、心の中で他人を見下し、他人の粗探しをすることを趣味としているような危ない子で主人公のことも動画撮影したりと「崩れる」瞬間を探すために監視しています。
 こういう行為も、他人に見下されていることから相手の弱味を握って優位に立ちたいとでもいうような他人からの反応を気にしての行動ですね。
 
 主要登場人物全員面倒くさい。
 アイドルがいるからややネット上での事件にも発展しますが、基本的には女子高生の周囲という限られた範囲での物語です。
 
 人付き合いというのは誰でも悩むことがあるテーマだとは思いますが、ラストでタイトルが本当に秀逸だなと思わされました。
 
 タイトルインパクトが全てというような作品ではありましたが、案外恵まれていそうな人も心の中ではとても悩んでいるのだとそういう単純なことを面倒くさい人達で深く表現されていたのかなと思います。