虫嫌いでも楽しめた昆虫ミステリ(?)
昔から本当に虫が苦手なのですが、今作はとにかくたくさん虫が登場する作品です。
探偵役が虫取り少年がそのまま大人になったような昆虫マニアで、夜の公園にカブトムシ捕獲に行ったらテントを張ろうとしているホームレスと間違えられ事件に巻き込まれたり、珍しい蝶を探しに山へ行ったら事件に巻き込まれたりと動く動機がまず虫という変わり者です。
当然マニアなので作中でもべらべらと昆虫知識を話しまくるのですが、聞かされる相手は呆れかえってしまいます。
しかし、こういう自分の好きな物を語る登場人物というのはそれだけで魅力的ですね。虫は嫌いですが、自分の好きな虫を語る人自体は嫌いではないだとかそんな感覚です。
短い話をいくつも詰め込んだスタイルの一冊なのですが、探偵役は虫のことばっかりであんなに飄々とした印象なのに、事件背景がどこか切なかったりする温度差で風邪を引きそうな作品でした。
聖書の引用も出てくる章があったりして、聖書に登場する虫の知識や本当に虫の生態と事件関係者の類似点を表現したり雑学的なのになんとなく切なくなる描写もあります。
昆虫標本の話が一番切ない話だったかなと思います。
それにしても行く先々で不審者と間違えられる割にあんまり気にしていなさそうな探偵は中々の強メンタルですね。
そして珍しい名前。魞沢が読んで貰えないだとか、漢字の説明が伝わらないだとか環境によっては変換出来ないだとか珍しい名字あるあるな悩みを抱えている描写がなんとなく好きでした。しかもエピソードごとに登場人物が切り替わるから毎回説明しなくてはいけないという。珍しい名字は苦労しますね。
文章も読みやすく、虫の知識や探偵の虫へ対する愛の描写がメインで虫そのものの詳細描写がしつこくあるわけではないせいか、虫嫌いの人間でも楽しむことが出来ました。
が、表紙イラストが虫だらけなので、続刊を購入するか微妙なところです。
たぶん自分では買わないけれど、なにかの縁で手元に回ってきたら読みたい……。
そんなポジションの作品でした。