【短編】商店街の看板たち/るみね らん
商店街の看板たち/るみね らん(ノベルアップ+掲載作品)
映像で観たい作品、舞台で観たい作品、音声で聴きたい作品、ゲームとしてプレイしたい作品……様々な作品がありますが、今作は「舞台で観たい作品」です。
作者さんの説明文にもある通り、舞台向きという感覚で、台詞回しや距離感が非常に舞台的な臨場感を演出しています。このまま戯曲にしてもよさそうな題材に感じました。
作者さんのあとがきによるとやはり舞台のための構想だったようですね。
この作品の登場人物……いえ、登場キャラクター達は人間ではなく、看板たちです。
擬人化された商店街の看板たちがコミカルに、シリアスにドラマを繰り広げています。
文字が欠けて笑われるパチンコ屋の看板や電球交換して誇らしげな焼き肉店の看板、どこか頑固で昔気質な古物店の看板……。魂実装済みの看板たちです。
様々な店の「顔」になる看板たちは当然店の宣伝をするために作られたのだからそれぞれが自己主張強く個性豊かです。
しかし、だからこそ、時代の移り変わりや需要の変化によって己の存在意義に悩んでしまったりします。
元々あった看板が引っ越していったり、アニメっぽい立て看板が新たなご近所さんになったり、登場看板の入れ替えが行われることでドラマに変化があります。
この看板同士の掛け合いがまさに舞台で観たいシーン。
いい声で店の宣伝をしていく。
想像しただけでわくわくします。
看板たちの賑やかな自己主張。そこで目立たないアニメ看板に先輩看板がいいところを見せようとしていく。
ここのやりとりは見せ場だと思います。
そして、仲間意識を強めていく看板たちは無機質であるからこその危機に遭います。
彼らは結局のところ看板なのです。魂実装済みだとしても看板なのです。
台風が迫ってきても自ら動くことは出来ず、販促期間が終わってしまえば破棄されてしまう看板も存在します。人間から見ればただの無機物なのですから彼らの人格(?)など考慮されません。
こうなってくると「なぜ作られるのか」「なんのために存在しているのか」という哲学的なテーマがより強調されていきます。
小説作品としては5000文字程度になるので本当に短い作品ではあるのですが、看板達の個性が強く、深いテーマにもマッチしてとても纏まっている作品だと感じました。
そして、上演される際には是非舞台で観たい作品です。
看板役者に期待ですね。