ROSEの読書感想文

読んだ本とかWeb小説の感想を書くよー

後宮の薬師 平安なぞとき診療日記 (PHP文芸文庫)

 平安時代が舞台のミステリ風お仕事小説。
 主人公は異国の系譜の女性薬師で都の貴族の依頼ではるばる仕事に来ましたがなんやかんやで大きな仕事に引きずり込まれていきます。
 主人公が薬師なので謎解き要素は「どんな病気か」「原因はなにか」というところになります。

 主人公の助手役になるのもまた薬師でわりと有能タイプ。探偵と助手というよりは探偵と探偵(見習い)といった感じのチームです。

 舞台が平安時代なので普通に陰陽師が祈祷したりして治そうとしているところに主人公が科学的方面でアプローチしていくのが面白いですね。

 病気の症状自体は現在ならすぐに解決出来てしまうような内容も多いのですが、舞台が平安時代だからこそ解決策が限られてしまうと言うのも悩みどころ。

 歴史に詳しいともう少し楽しめるのではないかと思います。

 

 それにしても、タイトルに「後宮」とつくと中華系が多い中、平安というところがまた目を惹きましたね。

 歴史物は自分だとあまり購入しないので面白い本に出会えたなと思いました。

 

 それにしても、祈祷が普通に選択肢としてありえる世界、平安クトゥルフみたいで面白いなと。実際平安時代はそういう時代だったのでしょうが、現代から考えるとやはり奇妙に感じてしまうなと思いました。

 

 そして今見るとシリーズ物なんですね。

 続編も入手する機会があれば手に取るかも知れません。

解剖学者と殺人鬼 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 原作者が解剖医という本職が書いたミステリ(ってかサスペンスホラー?)小説。

 解剖学者と連続殺人鬼の視点が交互に描かれていくスタイルで双方の考えが垣間見える……のですが視点がころころ変わるので時系列が掴みにくく読みにくい印象でした。
 ミスリードっぽい情報も仕掛けられていたりするのですが、謎解きメインと言うよりは殺人鬼と解剖医(と刑事)の戦い含めてサスペンスと言うところでしょうか。
 途中殺人鬼と被害者のやりとりで完全にサスペンスホラーという部分もありますが、クリミナル・マインドとかあの辺りが好きな人なら飽きるほど見たタイプの殺人鬼だったのではないかなと思います。

 原作者が解剖医と言うことでしたが、特別真新しさは感じず、視点変更が多すぎて読みにくいという印象ばかりが強い作品でした。
 殺人鬼の方も自分のルールがあって、過去があって……というのはまあよくあるパターンなのですが、なんというか彼本人に魅力を感じないというか。

 シリアルキラーで紛れ込める人物はたびたび魅力的に見え……ないです。なんというか本当にシリアルキラーの魅力を感じないというか、対人描写が浅いなと思いました。
 シリアルキラーの主人公であればデクスターなどの方が魅力的に感じますね。

 そして、シリーズ化前提なのでしょうか?

 ラストがスッキリしない印象でした。
 まあ、解剖学者の主人公であればいくらでも続編参加出来そうですけど。

 ミステリを期待するのであれば失敗という印象でしたがサスペンスホラーとしては一部分楽しめました。

卒業生には向かない真実 (創元推理文庫)

 三部作の最終巻です。

 

 前作のラストのトラウマで情緒不安定な主人公は訴えられることになり、調停に持っていこうとする弁護士の言うことも聞かず、自分の軸を曲げようとしません。

 それと同時に鳩の死体や落書きなどのストーカー(?)被害も受け、更に追い詰められていきます。

 違法入手した薬物に依存したり、自分が自分ではなくなっていく状況に怯えつつ、その状況から脱出するには事件に挑むしかないと調査を開始するのですが……という前半と後半でがらりとトーンが変わる一冊でした。

 もう最初のミステリ作風はどこに行ったのか。完全にサスペンスでした。

 主人公の違法行為の数々がヤバい。

 訴えられたり、犯罪捜査配信している時点でよく大学が内定取消しなかったなと思うのですが、その後の違法行為が本当に違法行為のレベルを超えている。

 

 あまり書くとネタバレになってしまうので書けませんが、主人公は目的の為に手段を選ばない人間ですね。

 確かに法は味方してくれないときもあります。だからといって私刑を推奨されるべきでもないのです。が、後半は完全なる私刑ですね。

 上手くいきすぎなのは主人公補正というところでしょうが、ハッピーエンド風にまとめているけれどこれ結局誰ひとり幸せになっていないのでは? という印象です。

 もともとパートナーとして軽犯罪を繰り返していたけれどそこまで共犯になる? と衝撃を受け、主人公の自己正当化に呆れよりも恐怖を感じます。

 

 ミステリだと思ったらサスペンスホラーだった。というような作品でしょうか。

 少なくとも三部作第一弾の雰囲気を求めてこの作品を読んではいけないですね。

 好みが相当分かれると思います。

 面白い面白くない以前に、「おいおい嘘だろ!?」と言いたくなってしまいました。
 捜査手段自体は二作目と同等なのですが、主人公の異常性が強調されすぎたように思えます。

 単純にトラウマからくる変化とは言い切れず、初期の主人公を応援していたとすれば裏切られた気分になりそうです。

 最初から最後まで翻訳は素晴らしかったなと思います。この翻訳者さんの別の作品を読んでみたいですね。

優等生は探偵に向かない (創元推理文庫)

  三部作の第二弾です。

 前作で真相に辿り着き有名人になった主人公が友人の兄失踪事件の捜査をすることになります。

 

 今作でもインタビュー中心の捜査なのですが、主人公が有名人になったのでインターネット配信で捜査状況を公開しながら情報収集していくスタイルになり、事件を一種のエンタメのように扱っているように感じられました。
 前作のパートナーが今回もパートナーとして活躍するのですが、主人公の独善的な部分が強化され、パートナーがストッパーになりきれていないように感じられます。

 

 作中でも語られていますが、成人、特に男性の失踪について警察が中々捜査にでてくれないというのはよくある話のようで、失踪者を捜すドラマなどもありますね。

 今回は主人公の友人の兄ということで、主人公も断る理由を探しきれずに捜査開始、というところでした。

 他人の秘密をずかずか暴きに行く割に自分が攻撃されると脆い主人公ですがやっぱり独善的な部分が強く、法よりも自分の善悪が優先という様子で今回は完全に犯罪行為に走ってしまいました。

 ここで受け入れられなければ続巻へ進むべきではないというところなのですが、ラストが衝撃的過ぎたので手を伸ばしてしまいました。

 

 一冊当たりがかなりの厚さで一冊の中で複数の事件が起こっているので人間関係がかなりごちゃごちゃして特に外国人の名前が覚えられないタイプだと苦戦しますが、巻頭に登場人物一覧があるのでなんとか把握出来ました。

 

 それにしても、SoundCloudの再生ボタン風資料が挿入されているのは本当に面白いなと思いました。自分の知っているサービスなどが登場するとやはり作品にリアルを感じられるような気がします。

 そして、小さな町なのに事件起きすぎで治安が悪い世界だなと思いました。

 それにしても、原作者は相当司法に恨みでもありそうな描写が多い作品ですね。

自由研究には向かない殺人 (創元推理文庫)

 

 タイトルインパクトの強い海外ミステリです。

 所謂探偵役は高校生の女の子。それも優等生。なんでも知ってるちょっと変わった子が、自由研究の題材に自分の住む街で過去に起きた殺人事件を調べ直す青春ミステリといったところでしょうか。
 三部作の第一弾で、凄腕探偵がズバッと直感的に推理、というわけではなく、いろんな人にインタビューしながら地道に証拠集めをして真相へ向かっていくタイプの作品です。

 本当に主人公の自由研究レポート作業を覗いているような気分になる作業記録やインタビューのやりとりなどが詳細に書かれており、主人公のかなりズレた感性や一種の図太さと年齢相応の繊細さが丁寧に描かれています。

 

 主人公が殺人犯の弟とされる人物の家に訊ねていく際も、個性的な言い回しを使ったりと、ジョークの翻訳も丁寧だなと感じました。

 翻訳小説自体は読むのが得意ではないのですが、括弧書きの注釈も丁寧で、文章も読みやすかったなと思います。

 GoogleFacebookなど実在のサービス名が出てきたり、架空の町と現実が組み合わされてリアリティのある世界なのでより、事件の衝撃を感じる作品でしょう。

 問題は主人公を素直に応援できるかという部分なのですが、やや独善的で他人のプライバシーにずかずかと踏み込んでいたり、情報のためなら不法侵入も平気でしてしまうような若さ故の暴走だけで済ませて良いかと悩ましい行動力のある女性なのでかなり好みが分かれそうです。

 

 全体的な描写は丁寧なので、三部作の中のこの一冊のみ読んでも楽しめる作品だと思います(続刊は本当に好みが分かれると思うのでこの巻で主人公が好きになれない人にはお薦めできません)

 タイトルインパクトが素晴らしく、よくこの原題からこのタイトルに訳したなと翻訳者さんに拍手したい作品でした。

1冊でわかるポケット教養シリーズ ピアノが上達する音楽の思考法

 ピアノ教本というよりは噛み砕かれた楽典という印象です。

 豊富なたとえ話で音楽の構造などを説明はされているのですが、たとえ話が主観的すぎてややわかりにくいかなというのが抱いた感想です。

 ただ、楽曲に対するアプローチの考え方は参考になる部分も多いかと思いました。

 

 演奏と作曲はまた別の技術だけど作曲してその譜面を他人に伝わるように書いて演奏して貰えるレベルになれば自分の演奏への解像度も上がるみたいな話も興味深い部分でした。

 

 指揮者を目指す音楽漫画で主人公がひたすら写譜をさせられるシーンがありましたが、あれも演奏家に必要な能力を鍛えるトレーニングの一つなんだなだとか気づきもあります。

 

 帯にもあるように「読む」「聴く」「弾く」「書く」は切り離せず全てひっくるめて鍛えなくてはいけない部分なのだなと思いました。

 

 全体的に著者の方の主観が強い本ではあるので(科学的な参考文献的な話が不足している印象)この一冊だけを鵜呑みにするのは少し問題があるかなとは思うのですが、一つ一つの項目が短いので他の音楽書を読む前のとっかかりには丁度いいかもしれません。

 

 タイトルに「ピアノが」とあるようにピアノ奏者向けに書かれているのでペダルの話や管楽器や弦楽器と比較したときの奏法の違いなども書かれています。他の楽器を演奏する人や創作の資料などの参考にもなりそうな部分で、電子ピアノを使用しているとそこまで意識しないペダルの効果的な使い方などは少し意識したいなと思った部分でした。

 

 全体的に短く区切られていて文章も読みやすいものでした。

 本格的な演奏技能や理論の本はハードルが高いという場合には手に取りやすい一冊かなと思います。

 上級者には必要ないかも知れません。

無能な皇子と呼ばれてますが中身は敵国の宰相です (キャラ文庫)

 異世界ではなく同じ世界の別人と精神が入れ替わってしまうタイプのファンタジー作品です。

 ナンバリングされてませんがシリーズ物の1巻です。

 

 正直普段であればナンバリングしろよとぶち切れて読むのをやめてしまうのですが、普通に面白かったなと思います。BLレーベルで出しているのが勿体ない作品です。BL要素ない方が幅広く楽しめたかなと。

 まず自分が散々馬鹿にしていた敵国の皇子と精神が入れ替わってしまう時点で面白いのですが、最初にやることがダイエット。そして自分が差し向けた刺客に自分が襲撃されるというコントみたいな流れ(本人は命懸け)という部分が本当に面白い。

 別に肥満体型のまま活躍してくれてもよかったのになと少し勿体なく思いつつ、BLだとそれが許されないのかなと思ったりしました。

 

 あと、入れ替わる前の皇子が投獄した相手を護衛にする(今回のお相手)という流れなのに、護衛わりとあっさり現状を受け入れてるという適応力の高さ的な部分も(魔術的な理由があるとはいえ)流れが面白いなと思いました。

 入れ替わった影響がいろんなところで出ますね。

 主人公がかなり目的の為なら感情よりも結果を優先するタイプというのも珍しいかなと思いますが、宰相クラスならそれなりに理性的に動けないと問題ですね。

 BLレーベルから出ているのですが、一巻目だからか本番シーンがないのもわりと気楽に読めたポイントです。

 本番いらないよ。普通にファンタジーとして楽しめるから。

 下手に濡れ場を入れると折角の面白さが崩壊するのではないかという不安も生じるくらいには憑依系異世界ファンタジーとして楽しめました。

 

 が、シリーズ物なのです。

 2巻も購入しましたが、後書きによると「しばらく続く」らしいので悩みどころです。

 

 もう、これBLシーンなし版出しません?

 主人公のキャラがかなり強かで好きなキャラでした。

 一応続きも楽しみにしています。