ROSEの読書感想文

読んだ本とかWeb小説の感想を書くよー

ジャッジメント (双葉文庫)

 被害者遺族が加害者に復讐できる復讐法が生まれた世界で倫理観が試される作品です。

 加害者も所謂少年法の範囲に含まれてしまう人間だったり無敵の人だったり実の親だったりするのですが、被害者遺族も被害者の血縁者だったり婚約者だったり様々な立場で、加害者と被害者が血縁の場合など考えさせられる場面の多い作品でした。

 

 倫理観が試されますし、実際こんな法律ができたときに自分は従来の法と復讐法のどちらをえらぶかなど考えることが多いですね。

 

 特に被害者が復讐法反対の活動家だったエピソードや、虐待死させられた妹の復讐をする兄(小学生)が執行するというエピソードなどは本当に考えさせられますね。

 故人の思想を優先させるべきか残された遺族の感情を優先させるべきかという部分や、子供にこんなことをさせていいのかという問題。また復讐法が出来たからと言って犯罪抑止力になるのかという疑問も残ります。

 特に虐待死のような場面ではいくら厳罰を作ったところで無駄なのではないかと思ってしまい、ただただ悲しいエピソードに思えます。

 

 凄く考えさせられるいい作品だとは思うのですが、凶悪事件の加害者に被害者と同じ仕打ちをするという性質上グロ耐性が低い人にはかなりハードルの高い作品に思えました。

 たまに人間よくこんなことができるなと思ってしまうような事件もありますが、まさにそんな感じの事件を寄せ集めたエピソード集です。

 主人公はわりと制度に反対派なのかなという印象で、自分の職業に対して疑問を抱き悩んでいる様子が非常に人間らしく、それでいた自分の役割に真摯に向き合い、遺族に対してもきちんと接している部分が好感を持てる人物でした。

 

 ジャンルは一言で言うとヒューマンドラマという印象ではあるのですが、感情に訴えかけてくるサスペンスですかね。

 

 好みが非常に分かれそうな作品ですが、好きか嫌いかで言えばわりと好きな作品でした。

雨月先生は催眠術を使いたくない (角川文庫)

 確実に続編を意識している作り……!
 
 ジャンルが凄く悩むキャラ文芸というところでしょうか。
 主人公が倹約家で兄弟のたくさん居る女学生、先生が准教授というコンビですが主人公二人とも癖が強いです。
 先生は他人の記憶を思い出させ、聞き出すことに特化した催眠術(超能力に近そう)を使える人物ですが、教え子(ヒロイン)にはなぜか通用しないと。
 ヒロインが友達が陰謀論にハマってしまったのを助けたいと先生に相談するところから話が進み、でこぼこコンビが出来上がるわけですが、この二人、結構いいパートナーだなと思いました。
 
 フタリソウサでいうところの探偵が先生、助手がヒロインですね。
 この探偵の異常な癖までしっかり描かれ、特殊能力もある。ぴったりじゃないですか。
 そしてこの助手、しっかり食らいつきます。
 
 実質フタリソウサですね。
 しかもシナリオ3本分! お得! というTRPG解釈しました。
 テンション的にもフタリソウサリプレイを小説化したらこんな感じかなというのに探偵の背景をがっつし盛ったような構造でした。そして助手側の背景があまり描かれていないので続編を意識した構造ですね。
 
 興味深いなと思ったのが、先生が研究室(?)に隠し部屋を作っていて、時々幼児化する部分があるのですが、それを後半で一応解答があるっけれど解決はしていないという点ですね。やっぱり続編意識してる……。
 
 心理学的な話はたくさん出てくるのですが、心理学素人のヒロインに先生や先輩が解説してくれるスタイルなので自然に情報が入ってきますね。先生と教え子パートナーだとこういう解説がしやすくていいチームになりますね。
 そして、初対面印象があんまりよくない先生ですが、デレ成分多めのツンデレという感じで口は悪いけどめっちゃいい人という、TRPGでよく見るスタイルで、この辺りもフタリソウサ感があるのかなと思います。
 
 本格ミステリって程ではないけれど謎解き要素もあり、サスペンス要素もあるけれどやっぱりキャラクター小説という印象です。
 タイトルに催眠術が入っては居るけど、そこまでオカルトでもなく、どちらかというとカルトと戦うという雰囲気ですね。
 それにしても、陰謀論犯罪手口はこんなのありそうという感じで、凄く現代的な犯罪だなと思いました。
 犯罪者のテクニックは内容自体は古典的でも少しずつ時代に合わせて変化していくので当事者になると見破りにくくなるのかななんて思ったりしました。
 
 続編出るでしょうから楽しみな作品です。

おれの料理が異世界を救う! 〜エルフの奴隷になんてなりません〜 (MF文庫J)

 よくある異世界召喚系ファンタジー+料理な作品。
 
 テキスト的にはそこそこ楽しめたかなと思うのですが、挿絵が少年漫画のお色気シーンみたいなエロ系ウリなのかな? という印象で、料理題材なのにマッチしてないなと感じ、挿絵で損しているのではないかなと思いました。
 
 料理バトル+お色気挿絵で『食戟のソーマ』みたいだなと感じてしまったのが一番残念ポイントですかね。
 父親にスパルタ教育で料理を叩き込まれた主人公が異世界で料理バトルをするのですが、料理知識が乏しい魔法のある世界で、魔法知識のない主人公が科学的に料理して戦う料理バトルなんですね。
 戦争のない世界、暴力はないけれど差別やいじめはあって、食材がなにもないところで甘味を作れとか、朝食で焼くパンの生地を盗まれるとか他の作品だと結構地味な、スケールの小さい事件が深刻な事件になるのが特徴的と言えば特徴的なのかなと思います。
 
 最近はライトノベルに対して最後まで読めればそこそこ楽しめた作品という認識をしていまして、開いたその日に最後まで読めたので結構楽しめた作品ではないかなと思います。挿絵で減点とは思いますが、料理ができない異世界人に科学的にどうしてそうなるのかを解説しつつ料理バトルをするというのが本当に料理は科学だ! という感じがして好きなポイントでした。
 ただ、ストーリーやキャラクターがあるあるを詰め合わせすぎた感じがしてあまり印象に残っていません。読み終わった直後でも印象に残っていないくらいテンプレだったかな?
 肝心な料理の方もあまり印象に残っていないのが残念です。
 ステーキと柑橘ポテトサラダが出てきた気がするけれど、特にレシピなども掲載されていないのが児童書との差ですかね。
 お料理系の児童書はだいたい作って見ようコーナーがあるような気がします。
 折角お料理系ラノベなのだから巻末にレシピ載せればいいのになと思う作品は度々ありますが、作中で素人キャラが作れた料理くらいは載せてもいいのではと思いました。再現すると異世界人の味覚がなんとなく理解出来ると思います。
 
 それにしても、食品の名前を部分的に異世界単語に入れ替えているわりに度々「○○っぽい野菜」などの表現になるので、だったら最初から入れ替えなければいいのになと思ってしまうのはジャガイモ論争に疲れたせいでしょうかね?
 
 他の作品にまで手が伸びるかというと微妙ラインです。

LIVE 警察庁特捜地域潜入班・鳴瀬清花 (角川ホラー文庫)

 この作家さんが本当に読みやすくて好きで、死体の描写とかが特に好きな作家さんなのですが、角川ホラー文庫にしてはホラーよりサスペンスとかミステリ要素が強いのかな? と思っていた作家さんでした。
 
 が。
 
 今回はがっつしホラー入ってた気がします。
 
 主人公が元刑事、現在は潜入捜査専門のバツイチ子持ちな女性で、隠れ離婚して元夫と同居を続けているという凄く特殊な環境の女性です。
 そしてグミが大好物でいろんな味のグミをケースに入れて持ち歩き、グミがないと不安になるグミジャンキーです。
 
 今回は本当にグミがよく出てくる。グミがなくなりそうだからコンビニを探すとか、感情とマッチする味が見つからないとか。
 娘には虫歯になるからダメと言いつつママは常にグミを食べている。そんな印象です。
 
 さて、肝心の事件ですが、焼身自殺のあった現場から等身大の花嫁人形が発見されたという流れで、人形の調査をする研究員という形で潜入しますが、等身大の人形が発見されて、現場に行くことになる時点で予測は付きます。
 きっと人間だろうな。
 作家さん的にも予想がつきます。
 人体加工して作られたんだろうな。
 
 その辺りは中盤までに分かることなのですが、それを誰が何の目的でやったのかと言うところがポイントですね。
 
 そして舞台が青森なので凄く訛りが出てきます。
 不思議なことに、テキストで読むと意外と分かりますね。というのが道産子感想です。まあ、祖母が函館訛りなので訛りが近いのもあるのかも知れませんが、わりと読みやすい訛りでした。
 
 民俗学的な知識がたくさん出てきますが、かなり噛み砕かれた説明で読みやすかったです。
 主人公は相変わらず仕事より家庭を優先させると言いつつ男社会の刑事育ちの為、男性の前で見せたくないみたいな舐められたくない的な感情が強く、娘の音楽発表会に無事に行けるのか的な、事件よりもそちらが主題なのではないかというほど主人公のそう言った感情が描かれていました。
 
 この娘がどう育っていくのか、隠れ離婚はいつ義母にバレるのかなど、事件以外の部分で今後を注目したいシリーズだなと思ったのですが、次回予告は藤堂比奈子のスピンオフでしたね。清花ちゃんの続編にも期待です。
 
 本当に何読んでも外れはないかなと思っている作家さんなので現在の「推し」作家さんです。
 次巻も楽しみにしています。

死にたいあなたに男子大学生がお肉をごちそうしてくれるだけのお話 (角川文庫)

 
 タイトルが既にネタバレしてるだろこれ
 
 スカッとメシウマとか帯に書かれてるけどね? これ、普通にホラーですよ???
 
 テキスト的にはライト文芸寄りかなという印象なのですが、やってることはがっつりホラーです。
 
 今回はタイトルで予測出来るとは思いますががっつりネタバレありの感想になります。
 
 タイトルでわかるようなことはネタバレではないと思うのですが、展開の話もどうしてもしたくなってしまう作品なのです。
 
 章ごとに主人公が変わり、共通する登場人物はお料理系YouTuberのシュンくんなのですが、このシュンくん、本名「佐藤瞬」と名乗ってるけど本当に? という謎をがっつし残してくれる系。
 
 一章目と二章目は人間のクズに追い詰められた主人公達が肉料理しか投稿しないお料理系YouTuber大学生に救われ、手料理を振る舞って貰い立ち直るハートフル系? なお話(ただし不穏な空気はある)なのですが、三章目は所謂「クズ」が主人公になります。
 もう完全にホラーですよ。
 シュンがいい肉使ってるなー、仕入れルート何処だろ? 肉屋にコネでもあるのかな? まさか自分で狩り?
 からの
 狩りの光景。
 
 このシュン、本当にいいキャラしてますね。
 いい癖してますね。
「人に食べさせるのが好き」
 凄くわかる。
 加害者を被害者に喰わせる……癖。
 目の前で、善人面して人肉喰わせる系男子。
 癖の塊かこの野郎。
 今月(始まったばかりだけど)読んだ中ではダントツ癖なキャラです。
 女の子がお肉食べてる光景大好きなので、被害者(女性)にお肉食べさせる男子最高ですね。 
 わざわざ女性被害者を選んで加害者を解体して食べさせるって相当な癖ですよね?
 人肉調理した動画投稿しているのになぜか捕まらないあたりも不思議ポイントで、シュンと接触している人間はかなり多そうなのになぜか捕まっていない。
 もしかして? 接触した警察官も食べてる??? なんて考えすぎですかね。
 食人に関わる作品の引用などは正直蛇足だったかなと思うのですが、食べさせたい癖などは好き設定だったのでシリーズ化されたらとりあえず追うかなという作品です。
 
 

異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記(アルファポリス)

 ほのぼの居酒屋経営(?)なファンタジー
 
 父親から継いだ居酒屋を畳んでしまった主人公が引っ越したら引っ越し先に別の人が住んでいて行き場がなくなったところ異世界人に拾われるところからスタートするほのぼの居酒屋経営物語です。
 
 異世界の酒、旨くない。異世界の料理、旨くない。
 どうも恩人の異世界人には日本の料理が口に合うらしい。
 持ち込んだ酒も好評。
 そんな感じで居酒屋を始める主人公です。
 
 全体的に主人公の一人称視点で彼女の主観のみで進んでいくスタイルなので、人によってはライトすぎて逆に読みにくいと感じるケースもありそうですが、視点ブレがないので読みやすかったと思います。
 主人公がお人好しという次元で済まないレベルの見ていて心配になってしまうタイプではありましたが、あの性格が余計にほのぼのさせていてのんびりとしたこの作品とマッチしていたなと思います。
 
 とにかく料理がたくさん出てきておいしそう。
 そして異世界の人たちがおいしそうに料理を食べるのがいいですね。
 他人の食事風景を見るのが好きというやや危険な癖を持っている人間として、こんなにおいしそうに食べてくれる登場人物達は最高ですよ。
 
 お酒やお米、ジビエなど、主人公が拘るべきポイントも明確で、得意料理「肉じゃが」は媚びてるなんて言われることもありますが、米が旨い店は大抵の料理が旨いんじゃー! と常日頃叫んでいる人間としてはお米に拘る主人公の料理が好評という流れに非常に説得力があるのではないかと思いました。
 
 嫌がらせもスルーする主人公、全体的にほっこりした異世界人。
 気負わずさっくっと読めるのがまた癒やし系作品として手軽でよいなと思いました。
 出てくる料理がおいしそう。
 読んでいてお腹が空いてしまうのが唯一の欠点と感じる程度には楽しんだ作品です。
 
 ほっこりほのぼのした作品なのですが、残念ながら続刊はないようです。
 

契約は悪魔の純愛 (キャラ文庫)

 ロマンチックな印象の悪魔ものBL。
 
 飲酒運転事故で両親を亡くした主人公の元に現れた悪魔が主人公に一目惚れして契約を迫り、そのままずるずる保護者兼任するような関係が続いていく話、なのですが、所謂攻め側が悪魔なのでBLでよく感じる「もっと悩めよ!」ポイントが同性同士の部分でなくても主人公がしっかり悩んでいるのでこれはこれでありかなーと思った作品でした。
 主人公は両親を殺された復讐の為に生きてきたような人間ですが、相手を殺そうとまではしないどこか根幹が甘い人間で、ひき逃げ犯は親子揃ってドクズです。
 もっと酷い目に遭えばいいのにくらい思ってしまう犯人ではありますが、一応は悲惨な目に遭ったのでよしとしましょう。
 
 攻め側の悪魔は悪魔の割に主人公に甘く、やることは精々「解釈の違い」を利用して自分に優位な条件を得ていく程度で主人公が本気で望まないことはしないという、洋画の悪魔たちとは大違いなロマンチック悪魔です。
 主人公は主人公で契約すれば様々なものを手に入れられる、なんでも願いを叶えてもらえるという誘惑も跳ね返す、よく言えば信念のある、悪く言えば頑固者というキャラクターで、後半はややツンデレ気味な印象も受けました。ストイックな性格でかなり好感を持てる主人公でしたのでやはり過去を考えると可哀想になってしまいます。
 
 ライト寄りではありますが、ややサスペンス要素もあるのかなと思います。
 特に犯人が人を使って主人公を襲撃するシーンなどは本当に人間のクズだなと思わされる一方で、主人公の立場からするとかなりスリリングなのではないかと思います。
 
 全体的にライト寄りですが、テキストも読みやすく、BL作品でよく感じる「もっと葛藤しろよ!」をあまり感じない作品でした。たぶん悪魔の習性を悩みに持っていったところが読みやすかったポイントなのではないかと思います。
 
 本編とは関係ないけど表紙の絵師さんわりと好みでした。
 
 最近読んだBLの中ではわりと好きなさくひんかなと思いました。