ROSEの読書感想文

読んだ本とかWeb小説の感想を書くよー

准教授・高槻彰良の推察9 境界に立つもの (角川文庫)

 もう第九弾なの? と言いたくなるシリーズ第九弾。
 
 番外編までしっかり読んだシリーズで毎回非常に楽しみなのですが、作者さんの映画愛や都市伝説愛のようなものを感じられる小ネタが多々含まれているのが非常に好きな作品です。
 
 今巻は「鎌鼬」「髪切」「口さけ女」など「斬る」に関わる怪異がテーマの事件がメインになりますが、「さとり」も登場します。
 主人公は相変わらず能力のことで悩みも持っていますが、初期と比べたら他のゼミ生と交流したりと本当に成長したなと感じます。
 
 今巻で一番好きなシーンは「千と千尋の神隠し」の話題が出たときに主人公が印象に思ったシーンは ハクが消えかかった千尋にあちらのものを食べさせるシーン と考え、異界のものを口にした自分はどの程度異界が混ざっているのかと気にする場面です。
 怪異に好かれやすい主人公はこれからもたくさん悩むことになりそうですが、将来どうなっていくのか非常に楽しみなキャラクターです。
 特に方々から将来のスカウトを受けている状態なので彼の出す結論がどうなるのか非常に楽しみです。
 研究者になって大学教授を目指すENDもありはありだと思いますが、学生の相手をあの耳でするのは大変だろうななどと思っています。
 
 もう一つ好きだったのは高槻准教授が貞子について語る場面で、「貞子VS伽椰子」の映画ネタまで登場しているのが非常に好きでした。作者さんの映画ネタ守備範囲相当広いですよね。憧れの作家は~シリーズの主人公も堂々たる映画オタクだったので、この作者さんの作品で映画の話題が出るのを非常に楽しみにしています。
 
 主人公がついに運転免許を取得し、初ドライブでいきなり高速道路に連れて行かれるスパルタ旅行も好きです。あの強面刑事さんなにかと面倒見がいいからか、彼も相当怪異に好かれるキャラなのに本人が怖がりというギャップが非常に好きなキャラなのですが、主人公たちが危険だと体を張って護ろうとしてくれるところが非常に男らしいですよね。
 意外と『もう一人』が主人公のことを護ってくれているような描写があるのに未だ正体が判明しないのが気になるポイントです。
 これでスーパーナチュラルに出てくるような人間の体を乗っ取る天使とかだったら面白いのになと思いつつ、もうしばらくシリーズが続くのかな? と思うと完結が待ち遠しいです。
 
 好きなシリーズなので完結後にまたイッキ読みしたいなと思っています。

魔王失格! (レジーナブックス)

 激ダサファッション魔王軍とコスプレイヤーのコメディ。
 
 主人公がコスプレイヤーで、クローゼットがなぜか魔王のクローゼットと繋がってしまったところから異世界に引きずり込まれて劇ダサファッションの魔王と出会い服を作ることになる話、なのですが、魔王軍の方々の服が絶妙にダサいというポイントが好きです。
 主人公は自分の好きなアニメやゲームのキャラを参考に魔王軍を「魔王らしく」返信させるべく衣装作りに励むのですが、特殊効果付与される服を作ってしまう能力があることが判明し、魔王に気に入られることに。
 
 全体的にテンション高めのコメディで、異世界でも衣装作りに情熱を持つ主人公の服作り愛は本物だなと思う一方で、魔王軍、一応自分たちの服がダサい自覚はあるんだという驚きがありました。魔族なら魔族で「激ダサ」を「自分が一番かっこいいと思い込んでいる」くらい突っ切っていても面白いのになと思いました。
 ファッションショーの変な格好したモデルがかっこよく見えるみたいな理屈でクソダサい格好を自分が一番かっこいいと思って誇ってるような魔族、いいと思うのに勇者たちからはナチュラルにバカにされているし、魔王っぽい格好をしたら誰か認識すらして貰えないという 魔族=ダサい という扱いをされているなど所謂ファンタジーと少し違うのが面白かったです。
 
 展開的に乙女ゲーム王道風なんだけど主人公は針子ってところが面白いですね。
 それにしても異世界のものを普通に食べて堪能し、特殊素材も怖じ気づかずに挑む主人公は中々図太い子ですね。
 
 魔王がツンデレっぽいキャラでわりと王道なのと、勇者と仲よさそうに喧嘩するコメディ感が腐女子四天王にそういう目で見られてるのも納得できる流れで全体的にキャラが濃かったなと思います。
 ただ、四天王の活躍に差がありすぎて少し寂しく感じました。金ぴかベルトのナルシストさん、もう少しナルシストなエピソードがあれば推せた……などと考えてしまいました。
 
 ストーリー自体はよくある展開だとは思うのですが、テンションと主人公のキャラが合えば楽しめる作品だと感じました。
 
 

魔眼の匣の殺人 (創元推理文庫)

 特異能力があることを前提としたミステリ(?)第二弾。
 
 前作はホラー寄りでしたが、今作はSFっぽい印象です。
 
 主人公は相変わらず学食でなにを注文するか推理するゲームを続けていますが、パートナーを失った傷はまだ癒えていない様子です。
 新パートナー(?)な探偵役も自分の体質に怯えているような描写も目立ちますが、とりあえず主人公をからかって遊べる程度には信頼関係を維持しているようです。
 
 キャラクターとしては主人公(ミステリマニア、助手枠)がヒロイン(探偵枠)をミステリ教育しようと課題図書を押しつけミステリ用語やパターンを叩き込んでいこうとする描写が興味深いなと思いました。事件ではあんなに推理出来るのに推理小説にはしょっちゅう引っかかるというヒロインがかわいいですね。
 
 今回は田舎の元研究施設に閉じ込められ、そこで殺人事件が起きるというパターンなのですが、容疑者候補の一人もミステリマニアらしく「ミステリのネタバレをするな」と発言をするところがメタっぽくて好きでした。
 実際ミステリをたくさん読む人ならそういう要素を見つけやすい構造だと思い、ついうっかり「これ○○に出てくる××だ」なんて言ってしまいそうになるものもあります。
 
 事件としてはこの期間に男女二人ずつ死ぬと予言したサキミ様と、異変が起きるかなり直前に異変の内容を絵に描く(主に不吉な内容)少女の二つの「本物の予言」がベースになっており、誰も幸せになれない事件で悲しい気分になります。
 誰も得しない。こんな理由で。
 ミステリなんてそんなもんと言われてしまえばそれまでですが悲しくなってしまいました。
 
 前回の事件はもっとスリラーな印象はありましたが、今回はクローズド(全開もクローズドと言えばクローズドですが)で身動きが取れないながらも、緩みの部分は多かった印象です。
 人が死んでいく作品だからしょーがないとは思いつつ、皆さん結構悲惨な死に方でエドワード・ゴーリーの絵本くらい悲惨に感じました。
 
 シリーズはまだ続刊があるようですが、文庫化されているのがこちらまでのようで続刊を文庫待ちするかやや悩んでいるところです。
 
 
 

迷探偵の条件 1 (MF文庫J)

 呪われすぎた学校と呪われすぎた主人公のコメディ寄りミステリ? なライトノベル
 
 ジャンルが結構悩むけれどまず主人公が女難過ぎる家系生まれで余命あと一年とか言われているだけでも濃いのに更に事件巻き込まれ型探偵気質とか濃すぎます。
 しかも周囲の女性が謎スイッチで突然ヤンデレ化するという事象が多々あるらしく、周囲の女性を警戒し観察しデータ化しているというかなりヤバい人物ですね。
 こういうラノベ探偵ものだと主人公の周囲は主人公になぜか好意を抱く女の子ばかりで男キャラが活躍しなくてうんざりするパターンが多いのですが、こちらの作品では周囲の女の子が主人公に好意を抱いても「そういう血筋だから」と考えられるのにメインヒロイン枠(?)が主人公に敵意を抱いていたり、主人公のモブ仲間の男子生徒がしっかり活躍したりと好感を抱くポイントが多い作品でした。
 てっきり表紙の女の子がヤンデレストーカーなのかな? と思っていたのですが、最後の最後でどんでん返しが……。
 表紙の子が結構好みだったので、次巻での活躍を期待です。
 
 事件的には学校内や下校時に主人公が巻き込まれる事件が多いのですが、自殺?→殺人事件? 的なパターンが集中していたように感じます。
 
 新入生向けの部活紹介から学校祭までの間に一体何度事件に巻き込まれるんですかね?(それ言ったらコナンくんとかほぼ毎日事件に巻き込まれてそうだけど)
 担任ロスト→副担任もロストって結構呪われた学級ですね。
 しかもやたら人数の多いマンモス校(イマドキ存在するのか)で職員室も二つ三つあるような環境なのに主人公クラスばかり災難。これは主人公の呪いが強烈ですね。
 主人公自身もミステリでよくある場面を挙げて近寄りたくない、同行者に選びたくないみたいな話をしているレベルの気質なので、相当強力な呪いのはずです。
 主人公は無事に十八歳になれるのか、運命の相手に出会えるのかという注目ポイントが残されたままなのでナンバリングされているとおり続きそうなのですが、今見たところだとまだ続刊が出ていないようです。残念。
 
 続刊が楽しみです。
 

江戸の花魁と入れ替わったので、花街の頂点を目指してみる (富士見L文庫)

 こんなに脚注が多い小説は初めて読みました……。
 
 キャバ嬢(歴女)が憑依転生(?)して花魁になる話……なのですが、拗らせ歴女の一人称語りで書かれていて、とにかく歴史的な単語、用語、言い回しを使いたいのかほぼ全ページに脚注解説があるという非常に読みにくい作品でした。
 題材や設定は面白いと思うのですが、いちいち脚注が入り「ここでは○○という意味」だとか「○○の教養の高さを表現」などと古典翻訳作品でもここまで脚注は入らないでしょという次元で物語に浸れない空気になってしまいました。
 ここまで脚注入れるくらいならある程度の単語は現代語を使用すればいいのになと思う一方で、キャバ嬢やホストたち、夜のお仕事の方々が使う単語も歴史用語と同じくらい脚注が入るので、この作品はどの層向けなのだろうという疑問を抱きました。
 たぶん夜職の歴女さん向け……なのかな?
 現代知識を活用して商売するという異世界転生ラノベでありがちな展開も多いのですが、専門用語をたっぷりつかった歴史ものなので異世界転生ラノベ層にはやや敷居が高いかも知れません。
 義務教育の範囲でわかりそうな部分であれば脚注は必要ないと思いますし、主人公のマニアックさを表現したくてこういう用語を使うのであれば解説しないというのも手だと思うのですが、どうも作者さんはこの作品に出てくる歴史用語を全て解説したかったようです。
 地の文が砕けすぎという評価も目にしたのですが、まあ最近のラノベの流れからするとよりライトよりな印象の文章です。
 地の文はラノベ系読む人であれば慣れになると思うのですが、脚注の多さが気になりましたね。
 ここまでどっぷり花魁が主人公という作品は初めてでしたし、キャバ嬢が花魁になってNo.1を目指すという流れ自体は面白いなと思ったので書籍としての読みにくさが勿体ないなと思いました。
 脚注をページ毎ではなく章ごとくらいで入れていればもう少し読みやすかったかもしれません。
 
 終わり方がなにも解決していないような中途半端なのも気になったのですが、続刊が出ていました。
 ただ、構成的な読みにくさがあった作品なので続刊には手が伸びないかなと思いました。

教室が、ひとりになるまで (角川文庫)

 TRPGで言うところの秘匿能力PvPシナリオみたいな一冊。
 
 特殊能力があることを前提としたミステリと見せかけてがっつり道徳倫理観に訴えかけてくるヘヴィなヒューマンドラマですね。
 
 思春期特有の空気を漂わせスクールカースト同調圧力などがテーマのひとつになっていそうです。
 
 主人公が通う高校で生徒の自殺が相次いでいました。そんな中、主人公は差出人不明の手紙を受け取り「嘘を見抜く」特殊能力を得ます。
 そして、学校内に自分以外に三人特殊能力を持った生徒がいることを知り、連続自殺は本当に自殺なのかという調査をするようになる。のですが……。
 
 能力の発動条件がわりとシビアなのがゲームっぽいですね。
 主人公の場合は「痛みを感じた直後」「同じ相手は三回まで」などの条件があります。
 毎回安全ピンで太股を刺しながら能力を使う場面を想像すると少しシュールですね。
 
 主人公は情報収集すると共に、自分以外の能力者を探すのですが、わりと向こうから来てくれる感。そして犯人はあっさり見つかる。のに! どうやったのかがわからない……。というスタイルの謎解きになります。
 自分の命も危ないけれど、なんとか相手の能力を暴いて使用できない状態にしたい。
 そんなサスペンス的なスリルもあるのですが、メインはスクールカーストの話でしょうね。
 だからといっておおっぴらにいじめがあるような環境でもなく、どちらかというと「学校全体が仲良し」というのを強調して、頻繁にイベントを開き生徒同士の交流を促すような学校です。
 この「善意」が本当に「善」なのかという哲学的な話だったり、特殊な力を手にし、それを利用して人を殺してもいいのかというこれまた哲学的なテーマがあったり。
 ただの異能ミステリだと思ったらがっつり倫理のお時間が始まってしまいましたというような作品でした。
 
 正直タイトルや特殊帯を見たときはデスゲーム系ホラー作品だと思ったのですが、全然方向性が違って驚きました。
 
 学校という空間の特殊性、そして学校を出た後にも引きずってしまうであろう学校生活について考えさせられる作品なのではないかと思います。
 

愛されベータに直情プロポーズ (ダリア文庫)

 そのジャンルを既に理解している人向けという印象の一冊。
 
 名称は知っていたけれどその設定をいまいち理解し切れていない「オメガバース」という共通世界観(?)をベースにした作品なのですが、その根本設定に対する説明がないまま話が始まっていくので理解出来ない点が多くありました。
 
 オメガバースは男性が(どういう理由なのかはよくわからないけれど)妊娠、出産可能な世界観らしいのですが、この設定自体がクトゥルフ神話のようにいろんな作家が共有できる設定のようですね。
 発生源がよくわからない「悪役令嬢」と似たようなテンプレがあるのかもしれませんね。
 
 そして、シリーズ物の二作目(スピンオフ?)のような立ち位置だったようです。
 セットに紛れ込んでいた一冊なのであまり気にせずに読み始めましたが、初手からトップ(所謂攻め)の外人さんがいきなりプロポーズして主人公の手を撫で回すなどの奇行を取り、狂人枠! と思わず叫んでしまったほどの衝撃を受けました。
 主人公と兄家族がそれをわりと受け入れてしまっているところに驚いたのですが、世界観的にしゃーないと受け入れられているようでした。
 主人公は外人さんの旅行(建築物めぐり)に通訳を兼ねて付き添うことになるのですがとにかく食べ物の描写が多いですね。作者さんが旅行好きなのかな? と感じさせるほど、行く先々でおいしいものを食べているなという描写があり、駅弁ひとつにしても、どちらを購入するか迷う主人公と両方買ってしまう外人さんの対比があったり食レポ的な印象さえ受ける食べ物の描写が多く、ビールや炭酸の描写も非常に多かったと思います。
 もうね、BL抜きにしてグルメ小説書いてもいいんじゃないかってくらい食べ物がたくさん出てきました。ご当地ビールについて語る小説とか書いてくれてもいいんだよ。と言いたくなるほどビールの話や日本酒の違いみたいな話が登場したりして、さてはこの作者さん飲兵衛だな? と思ってしまったほどです。
 京都はじっくり見たことがないので実際にそんなお店があるのかは知りませんが、建物や料理をここまでじっくり堪能して作品に表現して貰えたらお店側からしても嬉しいのではないかなと思いました。
 
 根幹設定で置いてけぼりになった以外はグルメ小説、観光小説として楽しめたかなと思います。
 逆に設定が理解出来なかったため、恋愛小説としてはよくわからなかったかなと思った一冊でした。