ROSEの読書感想文

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あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。 (スターツ出版文庫)

 中学生の主人公がタイムスリップして特攻隊員と出会う恋愛小説、でいいのでしょうか?

 恋愛小説か青春小説かやや悩むのでブログ内カテゴリは両方入れておきました。

 まず戦時中とか特攻隊なんてワードが入っている時点で自分では絶対選ばない本なのですが、それに上乗せして帯に「大号泣」なんて書かれているのです。

 ハードル爆上げですね。

 バードルが高すぎたので大号泣とはいきませんでしたが、特攻隊員達が残した手紙シーンでは若干うるっと来てしまったので敗北感があります。

 

 この作品は主人公、百合の心の動きがとても丁寧に綴られていて、感情移入しやすい構造の様に思いました。

 戦後教育ですっかり反戦思考(最早戦争アレルギーのような)に染まっている主人公と戦時中の人達の思考の差。

 特に中学生くらいの年頃だと、学校教育では戦争の悲惨さばかりが強調されるので、その時代に人々の「普通の暮らし」があったことを考えもしなかったような主人公の描写などはとても丁寧だなと感じました。

 物が手に入らない、いつ空襲がくるかわからない。そんな時代でも、人々の生活はあるので、当然笑うこともあり、少しでも前向きな生活をしている戦時下の人達の強かさや温かさがとても強調されています。

 勿論、戦争の悲惨さも表現されており、空襲に遭った際犠牲になった人達の姿も生々しく描写され、主人公もその光景に衝撃を受けます。

 タイムスリップしてきた主人公の装いには若干ツッコミが入ったりはするのですが、あまりに物を知らなすぎる点などもわりと受け入れてしまう周囲の緩さもそう言った時代だと言われてしまえば納得してしまいそうです。

 主人公があまり真面目な子ではなかったので義務教育で教わる範囲の内容すら理解していないという点も説得力がありました。

 

 突然終戦間近の時代にタイムスリップしてしまい途方に暮れる主人公の百合を助ける特攻隊員の彰。百合を住み込みで働かせてくれる食堂の店主。妹のようにかわいがってくれる特攻隊員たち。

 悲惨な時代なのに、この人達はとても温かいのです。

 70年も生きる時代に差があれば当然思考の差も大きいわけで、思ったことを思ったまま口にしてしまう主人公は危険な目に遭ったりもするのですが、彼らと関わっているうちに主人公の成長もあり、思春期特有の理由なき苛立ちのようなものを乗り越えていくのです。

 戦争史や政治的な話を考えてしまうとキリがないのですが、思春期の女の子が恋愛し、成長していく物語としてはまさに青春小説といった物語なのではないかと思います。