その可能性はすでに考えた (講談社文庫)
あらゆる可能性を考えすぎな探偵の奇跡を証明したい推理小説。
タイトル一本釣りで購入した一冊です。
借金まみれの個性が強すぎる美形探偵が奇蹟を証明するためにあらゆる可能性を否定していくタイプの推理を披露するのですが、他の人間が奇跡であることを否定する推理を披露し、それを探偵が否定していく形で話が進んでいきます。
相手の推理を聞いてから「その可能性は既に考えた」と報告書○ページの項目を~と解説していくスタイルなのです。
ちょっと待て。その報告書はいったい何ページあるんだ? と言いたくなるほどあらゆる可能性を考えられています。
なにより探偵が「奇蹟」を信じているというのが衝撃的で、奇蹟が存在することを証明するために探偵をしているというのが興味を惹かれたポイントでした。
依頼人から事件の内容を聞いた後に「この事件は奇蹟だ」と言ってしまうのがなんとも可愛く感じられ、奇蹟に執着する理由を聞かされても同情などよりは「この人変わってるな」というような感想になってしまうのが不思議です。
クリスチャンで奇蹟を信じる探偵と中国裏社会にどっぷり浸かった金貸しという不思議な相棒も興味深く、この中国人金貸し女性の視点で話が進んでいくのも面白いと思いました。
金を貸しているから回収するまでは探偵を利用してやろうという思考のはずが、情が移ったのかついつい面倒を見て、探偵が不利になろうとすると口出ししてしまうという性格がまた魅力的に感じました。
奇蹟調査ものと言えば「バチカン奇跡調査官」シリーズが浮かぶのですが、こちらは奇跡と言われる現象を奇跡ではないと証明することがメインなので否定から入るか肯定から入るかと言う部分で差がありそうですね。
登場人物それぞれの様々な推理が登場し、事件の真相が一本道にはならないので読んでいるときは面白いけれど少し疲れるという印象でした。しかし、探偵をはじめとする登場人物の濃さがまた癖になるというか、それも既に考えられていたのか! とどれだけのパターンを予測されているのかという探偵の思考がやみつきになります。
シリーズ続刊もあるとのことでそちらも楽しみな作品です。