ROSEの読書感想文

読んだ本とかWeb小説の感想を書くよー

難民探偵 (講談社文庫)

 タイトルに探偵って入っているけれどミステリと言うよりはキャラクター小説という印象です。
 
 この作家さん実は初なのですが、登場人物に変な名前をつけるのが好きみたいですね。
 
 まず序章がやたらと長い。序章だけで40ページほどあるのですが、殆どが就職活動に失敗しまくった「就職難民」な主人公の身の上話で、高望みしすぎなのはわかっているけれど悪いのは私じゃないみたいな性格が苦手だなと感じてしまいました。
 もう少しで内定取れそうだったけどえり好みしてたら相手が倒産したからあの時の自分は間違っていなかった、とか社員の話を断ったらその先の店が突然閉店して職なしになっただとかそんな話ばかりの序章。
 ミステリの導入にしても長すぎて事件が起きる気配すらない。
 序章の最後でようやく祖母が紹介してくれる叔父が登場するのですが、この強烈な叔父が登場するまでの主人公の身の上話に耐えられるかがこの作品を楽しめるかどうかの最初の分岐点になりそうです。
 
 主人公の叔父(作家)が金銭感覚が狂いまくった人嫌いというインパクト特大のキャラクターで普通なら、この叔父が探偵ポジションなのでしょうが、どうも違う様です。
 主人公が叔父から預かった携帯に警察から電話がかかってきて身元保証人として保護された人物を引き取る。ここがあらすじに書かれている部分なのですが、この展開まで100ページ近くかかります。そして、既にあらすじでバラされているのですが、この人物が警視で所謂探偵ポジションキャラのようです。
 
 冒頭100ページ分をあらすじで要約されてしまうのが問題なのか、あらすじ欄で収まる内容を100ページも書き続ける方が問題なのか。
 肝心の事件に入る前が長く200ページ経過しても肝心の捜査や推理に当たる部分の進展がなく、探偵物を期待して読むとうーんとなってしまいます。
 が、キャラクターは個性的なのでキャラクター同士の掛け合いはテンポがよいです。
 他の作品の感想でも書いたかも書いたかもしれませんが、ミステリ系のジャンルだと必ずと言っていいほど「十角館の殺人」の話題が出てきますね。
 
 作者さんが相当発表作品数が多いこともあり、売れっ子作家の叔父が話す内容に出版業界のあれこれが垣間見える部分は興味深いなと思ったのですが、そう言った部分だと先日感想を書いた「作家刑事毒島」の方がインパクトがありました。
 
 就職難民を経験した人は序盤でリタイアしたくなるかもしれない作品かなと感じました。
 
 叔父の使ってる寄付つきカードには興味がわきました。
 
 

水曜日が消えた (講談社タイガ)

 
 映画原作映画ノベライズです。
 帯に一人七役と書かれていたのが気になってしまい、先に映画を観てしまいました。
 全体的に映画と同じ展開ですが、ラストだけ少し違いました。
 個人的には映画のラストの方が好きでしたが、こちらのラストも素敵でした。
 
 とてもジャンルが悩む作品ですが、一番はヒューマンドラマといったところでしょうか。
 
 ひとりの人間の中に七つの人格があり、曜日ごとに人格が入れ替わるというユニークな状態の人物が主人公です。
 作中は七つの人格の内のひとつ、「火曜日」が主人公となるのですが、いつ目覚めても火曜日で、一週間で一番退屈な日だと不満を抱いているところ、ある日突然水曜日にも自分の意識があり、別人格の「水曜日」が消えてしまったことに気がつく。というようなお話なのですが、人格それぞれが別々の才能を持っていてそれぞれが一流というのがまたユニークな設定だなと思いました。
 映画だとイマイチ「水曜日」がどんな人物なのかわからなかったのですが、小説を読むことで照れ屋なスポーツマンなのだなだとか、「木曜日」は以外と気難しい人なのだなだとか一番アクティブそうな「日曜日」が以外と寡黙なキャラなのだなという細かい部分が理解出来て面白かったです。
 
 映画を先に見てしまった身としても楽しめましたが、先に読んでから映画を観てもエンディングが違うので楽しめる作品かと思います。
 
 とても好きなシーンは人格ごとに付箋カラーがあって、お互い付箋メッセージでやりとりをするところです。めんどくさがりそうな「月曜日」もしっかり付箋メッセージを残していたり、面倒ごとを押しつけるときにキャラメル一個だとか小さなお菓子を添えるところなどが個性が表れていていいなと感じました。
 
 あとは潔癖気味な「火曜日」が片付けすぎると他の人格にバレると言われて少し散らかそうとするのに、散らかし方まで几帳面というところが面白いなと思いました。
 どの人格も個性が強いので、彼らの日常をもう少し覗いてみたかったなと感じた作品でした。
 
 映画のエンドロールだと日常のやりとり付箋が流れるのでああいうシーンをもっと見たいですね(歯医者の押し付け合いが好きでした)

黒猫閻魔と獣医さん (ラルーナ文庫)

 四つ耳は滅べ!!(過激派)
 
 この感想を書いている人間はケモナーを拗らせすぎて四つ耳撲滅過激派です。
 別にBL強化週間とかそう言うわけではないのですが、だいぶ前に購入したセットの中に入っていた一冊です。
 
 とりあえず作者さんが「動物を飼うときは最後まで責任を持って飼いましょう」という考えであることは作中の台詞からも伝わってくるのですが、全体的に軽いノリのBLとい印象でした。
 
 まず主人公が猫で閻魔という設定ではあるのですが、猫が抵抗なく人間に恋するというところが気になってしまって突っ込まずにはいられません。
 主人公(猫、受け)が世間知らず過ぎることに攻め(獣医)があまり違和感を持っていないことと周囲があまりにもあっさり受け入れすぎなことも気になりますし、攻め側が主人公の正体に気づいてもあまり突っ込まないことも気になりました。
 
 主人公と攻めの間に繋がりを用意するためにとりあえず暗い過去を用意しましたという感じもなんとなく気になります。
 そしてBL特有なのか悩む期間がなくあっさりくっつく。周囲も違和感がない。
 ついでに言うと恋敵(?)まで同性。
 一応女性キャラも登場するのに影が薄すぎてこれがBLかぁと思わずにはいられません。
 
 そして主人公が驚くと猫耳+尻尾が生えるのですが、四つ耳状態なのでコスプレ呼ばわりされるのですが、どうしても驚いて耳や尻尾というと「東京ミュウミュウ」が浮かんでしまいます。
 猫耳&尻尾設定必要だった? 猫要素欲しかっただけ? みたいな疑問が沸きました。
 
 BLだと避けて通れない(?)アレなシーンはあっさり目なのでそういう描写苦手な人には読みやすく、好きな人は物足りないという感じかなと思います。
 どちらかというとドラマ主体、主人公の世間知らず過ぎる行動中心のややコメディ寄り作品かなと思いました。

作家刑事毒島 (幻冬舎文庫)

 
 ミステリと呼ぶよりはキャラクター小説という印象になってしまう程、毒島さんのインパクト強すぎる作品です。
 
 正直物書きにはグサグサぶっさり突き刺さる最早暴言と言ってしまいたくもなるような言葉の凶器が何度飛んできます。
 最初に出てきた下読みのコメント時点で刺さりすぎてうっ……ううっ……と涙が出そうな状態で読む手が止まりそうでした。
 
 新人賞応募の容疑者三人はそれぞれこんな人いる! しかもこんな作品いくつも見てきたって感じのがまさに表れているような人達で、え? 特定のモデル居るんじゃないの? と思ってしまったほどです。つら。
 
 その後の章も「ああ……こういう人いる……」と思わされてしまう作家さんがあまりにも多く、Twitterで多くの物書きさんと交流がある立場としてもぐさっ、ぐさっといろいろ刺さって納得してしまったりしました。
 
 ある章では本の一生とも言える企画会議から流通先、そして本の火葬場までのツアー(普段の生活では意識しないので興味深い)解説のシーンがありました。
 印刷工場から裁断まで見学してみたいですね。
 
 また別の章では図書館で借りた本しか読まない人物が登場しました。ほぼ購入派の自分からすると、きちんと期日通りに返却出来るように読み終わり、そのレビューを書き続けられるなんてとてもマメな人なんだなという感想を抱きます。
 自分が購入派なのはいろんな本を同時進行でちまちま読むという偏った読書スタイルなので、返却期間までに読み終われないというのが一番の理由なのですが、やはり購入しないのは出版業界にとってマイナスなのだなと再認識させられた人物でした。
 
 事件としてはそこまでミステリという印象ではありません。推理というにはわりとすぐに犯人がわかってしまうので、ライトミステリかキャラクター小説といった印象でした。
 犯人の動機はコナンのようなわりと「そんな理由で???」となってしまう事件ばかりです。
 
 面白いなと思ったのは度々幻冬舎さんの名前が出てくる場面でしょうか。
 探偵役が作家で幻冬舎さんから出てる作品だからか何度も何度も飛び出してきますね。
 
 今回助手役に当たるのが新米刑事の女性なのですが、ミーハーな部分があったりわりといまどきの女子っぽい印象を受ける部分もありますが、非常に真面目そうで好感が持てます。毒島さんに苦手意識を持ちながらも徐々に慣れているあたり相当メンタルが強い子なのだなと感じました。
 
 キャラクター小説としては読んでいて面白い作品だったのですが、なにせメンタルに辛い発言が多々あるので続刊買うか非常に悩む作品です。
 

うちの家庭教師がグイグイきすぎて勉強どころじゃない! (ガガガ文庫)

 
 ラノベセットに入っていた中の一冊です。
 
 控えめに言って読んだ時間を返して欲しい……。
 
 表紙絵好きなら絵師さん目当てで購入……ですかね。
 
 まず導入の時点でなんじゃこりゃ状態です。
 表紙のお姉さんが家庭教師、らしいのですが、教え子の部屋でほぼ裸族。性的なからかい含む。
 なぜクビにならないのか。
 難関大学E判定というわりと危機的状況のはずの主人公に、まあ、家庭教師をつけるというのはありでしょう。
 予定していた人が怪我で代役、というのもまあ……納得するとして……。
 主人公の親、大学の教員よ? 教え子が教員の家で好き勝手って……。
 
 というような突っ込みをし出したらキリがないのですが、もう、家庭教師のキャラがなにしたいのかさっぱりわからず、全く好感が持てません。
 
 更に主人公が妹に顔さえ「セクハラ」扱いされている部分も気になります。この作者さん、きょうだいがいない方なんですかね。仮にも同居している家族にそこまでの暴言は中々吐きませんし、そんな言葉が飛び出るのであれば親が注意するはずです。余程倫理観のない家庭なのでしょうか。
 
 登場人物の言動に突っ込みどころが多いのですが、中盤に至っても誰一人好感を持てないという事態になり、結局なにがしたい話だったのか全く理解出来ませんでした。
 
 あえて言うならお色気路線を狙いまくって打ち切りになる少年漫画のような雰囲気といったところでしょうか。
 
 後書きによると、ウザカワ女子に飴と鞭で甘やかされたい路線らしいですが、ウザカワの「カワ」の部分が全く感じられませんでした。
 
 羞恥心ゼロなただの痴女なので親が止めないなら警察に通報すれば一発ですよ。と言いたくなる家庭教師もの。どうしても家庭教師でエロコメやりたいのであればいっそ官能小説の方へ行った方がよかったのではないかと思いました。

3泊4日の恋人 (講談社X文庫)

 久々のBLです。
 講談社X文庫と言えば、悪霊シリーズとかとらぶるトリオだとかそう言った少女小説だとか、十二国記みたいなファンタジーのイメージが強かったのですが、BLもあったんですね。元書店員なのに不勉強でした。
 
 今作の主人公は男娼(コールボーイ)ということで既に違法な空気なのですが、あれ? こいつ未成年??? となりその時点でだいぶうわーなのですが、どうしてもこういう設定を見ると「パリ、夜は眠らない。」のヴィーナス・エクストラヴァガンザを思い出してしまいます。
 一応主人公はそういう職業なのでいろいろ注意はしているのですが、大金ちらつかされて取引先のご機嫌取りとして送られた先でプロ根性から本気になってしまうというストーリーです。
 全体的に甘め。突っ込みどころもややありますが、特に大きな事件もなく、勿論主人公がヴィーナス・エクストラヴァガンザの様な目に遭うこともありません。
 所謂攻めに当たるエリート外人さん(クォーター)は終始大人の対応というか、やや過保護にも感じられるキャラクターでした。
 
 主人公が普通に違法行為をしているだとか、危険な仕事だけど周囲の大人に恵まれまくっていただとか気になる点は多々ありますが、BLはファンタジーということで。
 
 一番気になったのは一応「ゲイではない」と言っていた攻めが受け側の強引さがあったとはいえわりとあっさり関係を持っている点でしょうか。
 もう少し悩め。葛藤しろ。とBL作品全般で感じてしまう部分ではあるのですがやはり気になりました。
 
 そしてサブキャラのさくらんぼのような名前をした人物が唐突に現れかなりの存在感を発揮していたのですが、別作品からのゲストのようですね。両方読まないと関係性が理解出来ないというのは少し不親切設計なのかなと思いました(たぶん今作がスピンオフ扱いなのでしょう)
 
 全体的に甘めな雰囲気なので、痛い描写、苦しい描写が苦手な人は安心して楽しめる作品なのではないかと思いました。
 

文豪たちが書いた 泣ける名作短編集(彩図社)

 教科書に載っているような文豪達の教科書に載っていたりいなかったりする作品を集めた短編集です。
 
 有名作ばかりなので今更ネタバレもなにもないと思うので、特に印象の強い作品ふたつについて感想を書きます。
 
 というか「泣ける」の方向性が所謂感動ものと違って、なんとなく不快感すら抱く方向性に感じられる作品が多数あります。
 
 
 まずは太宰治の「眉山」です。
 私小説のような雰囲気で、金もないのにつけで飲みに行き、そこで懐いてくれている従業員を疎んじ、仲間内で馬鹿にしていたりします。酷いあだ名まで付けていました。
 その後、その疎んじていた従業員が実は大病を患っていたと耳にし、衝撃を受け「いい子でした」と漏らすのです。
 
 今まで散々馬鹿にしていた相手に対して「いい子でした」とコメントするのは自分が人でなしだと思われたくない保身の気持ちも大きいのでしょう。
 太宰作品は好きな作品も多いのですが、この作品は非常に気持ち悪く感じてしまう作品でした。
 普段陰口を言っている相手が退職するときに花束や寄せ書きを率先して用意する人の様な嫌な気分になる主人公だと感じてしまいました。
 
 
 もう一つ、学生の頃にも一度読んだことはあったのですが、何度読んでも衝撃なのは森鴎外の「高瀬舟」です。
 尊厳死をテーマにした作品と言われていますが、どうしようもなく悲しくなる作品です。
 弟殺しの罪人として裁かれ、護送される喜助がどうして弟殺しをしてしまったのかという話にはなるのですが、状況と理由を考えると、それを罪と呼べるのかというのが度々語られるテーマだと思います。
 実際国語の授業でこのテーマについて語り合ったこともありましたが、未だに明確な答えが出ません。
 ただ、自分が弟の立場であればきっと同じことを願ったのだろうなと思います。
 
 他にも宮沢賢治芥川龍之介など教科書で飽きるほど見た名前がぞろぞろ並んでいる短編集なので文豪達の名作を読み直すきっかけになった一冊でした。