君の膵臓をたべたい (双葉文庫)
書店員時代に散々単行本を売り、映画化もされた超有名作なのですが、読む機会がなくようやく手に取りました。
全体を通した印象は、文章が綺麗なケータイ小説。といったところです。
病気のヒロインや悲劇的な展開などは古のケータイ小説を連想させます。
カテゴリで言うところの「青春小説」といったところでしょうか。十代の少年少女の心境変化が丁寧に描かれた作品だと思います。
不思議なタイトルで初見ではインパクトがあります。タイトルの意味を回収されると思わず「なるほど」と口に出してしまう程面白いタイトルだと思います。
同じ作者さんの他の作品もインパクトあるタイトルがあるのでタイトルセンスの優れた作家さんだなと感じています。
この作品の興味深い点は主人公の名前が終盤まで明かされない点です。周囲から呼ばれている描写が名前ではなく【】表記の相手からの評価のような表現になり、シーンや相手の感情の動きでその中身が変化しているという点が大変興味深い点でした。
ストーリーとしては、高校生の主人公が病院のソファに置き忘れられた「共病文庫」という文庫本を拾い、ヒロインが余命いくばくもない膵臓の病気だという秘密を知ってしまうことから広がっています。
このヒロインは残された時間をとことん楽しもうとする前向き、というよりは前向きに振る舞っていなければやってられないとでも言うような印象で、主人公のことを不謹慎と表現するかは微妙な「病人ジョーク」で振り回し、同じ時間を楽しむ相手として様々な場所へ連れ回したり、拒否権は無いとでもいうように強引に、それでも遠回しな気遣いを感じさせるような行動を取ります。
じわじわと削られる彼女の日常が、彼の日常の一部になっていき、そして、終わりの時間が迫っていく。
今度の約束は果たされるのか。そんなことを考えてしまう……。
正直ケータイ小説でよくあった展開だなという印象で、ラストの悲劇含めて新しいと感じるものはないのですが、言葉の選び方が面白く、登場人物達の会話のリズムというか、会話のテンポが非常に読みやすい作品です。
気になったのはヒロインの強引すぎる行動。半分拉致のような形で旅行まで行ってしまうのは残り時間を考えた上での行動なのかもしれませんが行動力が恐ろしい子だと感じてしまいます。
帯に「涙する」とか「感動」とか書かれているせいでハードルが非常に上がり純粋に楽しめないという捻くれた感性なこともあり、涙なくして……とは言えない作品ではありましたが、登場人物の会話を楽しむという点では面白い作品でした。