私の革ジャンからおっさんの声が聞こえる/くろつ
私の革ジャンからおっさんの声が聞こえる/くろつ(ノベルアップ+掲載作品)
タイトル一本釣りとはこのことか。
そう思ってしまうほど、インパクトのあるタイトル。
なんといっても革ジャンからおっさのんの声が聞こえるのですから事件の香りしかしません。
真っ先に「どういうこと!?」と考え、釣り上げられました。
そしてこのタイトルインパクトに偽りはないのです。
古着屋でお洒落な革ジャンを見ていると、声がするような気がした。
こんな状況なら店員さんが声をかけたのかな? なんて、なにも気にせずに購入してしまいますね。実際、主人公もお買い得な革ジャンを購入します。
そして、自宅で一人ファッションショーを開催し、違和感に気づくのです。
着替える度に中年のおじさんの声が聞こえる。
事件ですね。素材表示には「羊革」と書かれているくせに中年のおじさんの声が響く。
革ジャン(おじさん)の気分はスタイリストなのでしょうか。軽くセクハラにも受け取れてしまうような声が響く。
革ジャンを脱ぐと声は聞こえない。着ると若干過保護気味のおじさんの声が響く。
興味深いのは着ていないと黙る(というか聞こえないだけ?)というところでしょうか。
しばらくしまい込んでおけばそのうち黙るかもしれない。そんな期待はすぐに裏切られます。革ジャン(おじさん)は主人公が着る度に話しかけてくるのです。
そして革ジャン(おじさん)がいい人(いい革ジャン?)なのです。
心配性で過保護感のあるおじさんがことあるごとに主人公を気遣っているのを感じ、主人公とおじさん(革ジャン)の掛け合いがまた温もりを感じさせます。
とても短い作品ですが、主人公とおじさん(革ジャン)がそれぞれキャラが立っていて、どちらも好印象なキャラクターです。
主人公が古着屋で革ジャンを選ぶまでの過程から家で一人ファッションショーをする間だけでも主人公のファッション観が垣間見え、そこがまた彼女の魅力を強調している様です。
タイトルだけ見ればギャグ全振りの作品かと思うのですが、その考えは簡単に裏切られ、オチの悩みまで含めてじんわり温かな作品だと思いました。