女装して、一年間暮らしてみました。 (サンマーク出版)
女装して初めて見えてくる世界がある。
この作品は一応ノンフィクションということになっているのですが、たぶん脚色がとても多いのではないかなと思います。
しかし、あまりこういう観点で書かれた本がなく、興味深い試みだなと感じました。
なぜ女装することになったのか。
そのきっかけがまた興味深いのです。
寒い時期にズボンの下に穿く下着を求めデパートへ。寒いけれど「モモヒキ」は穿きたくない。そんな作者さんの拘りがあり、目に入ったのが婦人下着売り場の「ストッキング」でした。
中々ここでストッキングに手を出そうという発想にはなりませんよね。
そして、言われてみると確かに婦人服に比べて紳士服は選択肢が少なすぎるなと感じます。
男性だって冷える人は冷えますからね。
そんなきっかけが女装への第一歩なのですが、一度やってみるとなるととことんやる人のようで、自分の心の中の女性の部分に向き合い、ワンピースや婦人下着の購入からハイヒールを履き、しまいには婦人科検診を受診するなど……盛りだくさん過ぎる濃密な一年間を過ごすのですが、彼は既婚者で、女性のパートナーがいるのにも関わらず、こういった女装への道へ進むわけです。
お国柄もあるのかもしれませんが、彼のパートナーである女性は、自分のパートナーが女装することに対して拒絶反応を抱きます。
ヨーロッパ圏はやはり女装に対して嫌悪感を抱く人が多いようですね(作者さんはドイツの方です)。
友人男性とデートしてみたり、女子会に参加したりと彼の周りには協力的な友人が多数存在はするのですが、心ない言葉を投げかけるような人も存在します。
友人も単に面白がっているだけな雰囲気の人もいます。
日本での女装を考えると、神話から女装が出てきますし、ある程度の女装文化は存在しますから、ヨーロッパ圏と比較すればそこまで極端な差別を受けたりすることもありません。むしろ、男の娘など文化の一部のようなカテゴリが存在しますね。
この作者さんは周囲に反対されたり受け入れられたりしながら女装生活を続け、自分を見つめ直していくわけですが、自分の中の女性的な部分を受け入れるという過程はあちらの方には困難を伴うことのようです。
日本にも似たような思考になる人も居るのかもしれませんが……。
こういうものを読むとジェンダーとセクシュアリティについて考えることになるのですが
「ジェンダーは目覚めたときの自分、セクシュアリティは寝たい相手」
という表現を使っている方がいました。
そうなると、装いはジェンダーに関わる部分で、この作品は自身のジェンダーを見つめ直すノンフィクションという形だったのでしょう。
ほぼ作者さんの主観で構成されていますので、他の方から見ればまた別の考え方や表現があるのでしょうが、自分のジェンダーについて改めて考えるきっかけになった本かなと思います。