あなたはここで、息ができるの? (新潮文庫)
SFも恋愛小説も自分からはあまり読まないジャンルなのですが、こちらの作品は言葉選びというか言い回しがとても面白い作品です。
主人公の個性が強いというか、地の文部分の独白で主人公の言葉選びが面白いなと思っていたら主人公と母親の会話も言葉選びと会話のテンポが面白いです。
妙に理屈っぽい母親なのに、自分を見て気づいてみたいなまどろっこしい会話をしてしまうのがなんだか面白いのですが、会話中に主人公の切り返しもテンポがよいです。
エネルギッシュでちょっと暴走しがちなヒロインは、古の少女小説の「あたし」を連想させ、好感度が高めです。名前がキラキラネームぽい雰囲気なのも好みでした。
唐突に登場した宇宙人に「なにこれ」と思ったのですが、帯に「青春SF」と書かれていたのでまあ、受け入れられました。が、この宇宙人やたらと日本の漫画と作家に詳しくないですか?
ドラゴンボールにたとえてと言われて他の作品と漫画家名をセットでこんなに出せる宇宙人、新鮮です。
好きなシーンの一つは主人公が気になる相手を盗撮するか悩むシーンです。自分のことをストーカーなのかと悩んで、それでも写真が欲しいみたいな葛藤。盗撮は犯罪ですが、この年頃の女の子はそんな葛藤を通過していくのではないかなと感じ、微笑ましく思えました。
全てのシーンで主人公の独特な言い回しが面白いと感じさせるのですが、序盤のたとえ話に映画館でケンタウロス、しかもノーモア映画泥棒がセットなんて場面を想像させられては人前で読めないほど笑ってしまいます。
こういう話がポンポン出てきてしまうあたりで主人公がとてもユニークな性格なのだと伝わってくるのがよいです。しかも序盤で。
こんな面白い主人公の話をもっと知りたいと思った後に、母親とのやりとりが出てきたり、宇宙人が出てきたりするのです。コンボの繋ぎ方が上手いというか、ユーモアのテンポが非常によいです。
特撮でギャグシーンをこのくらいの割合で入れないと子供が飽きてしまう的な話をなにかで見たことがありますが、そんな感じで飽きないポイントでユーモアが挟まってくるような印象でした。
ストーリーとしては好みではなかったのですが、キャラクター性と言葉選びとリズムが好きな作品でした。