ROSEの読書感想文

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爆弾(講談社)

 
 以前「白い衝動」がなかなか衝撃を受けた作家さんだったのでかなり期待していました。
 正直冒頭はあんまりかなーと思ったのですが、中盤からが素晴らしいですね。
 相変わらず倫理観、道徳観を問いかけてくるような作品だったのでこの作者さんの作風なのかなと感じました。
 
 視点がなんども変わるのでその点がやや読みにくいかなとも思ったのですが、ベテラン刑事と新米の対比があったり興味深い点も多くありました。
 特に女性警官が活躍(?)するのは最近の流行ではあるのですが、今作は犯人に振り回されたり辛い経験をしつつ成長していく感じで、作中で一番成長したのは彼女かなと感じました。
 
 酔っ払いが起こした暴行事件の調書を取っていたと思ったら相手が爆撃犯である可能性が浮上……から始まる半分以上のシーンが取調室というインパクトある形式の作品です。
 執拗な言葉遊びや心理駆け引きで自称超能力者で自称記憶喪失の「スズキタゴサク」からヒントを得て爆弾のありか、次の標的を突き止める刑事達の奮闘を描いているのですが、その中で過去の不祥事を掘り返され話がどんどん複雑化していきます。
 400ページ超えの大ボリュームですがそんなことを感じさせないくらいよく喋るスズキタゴサク。それを相手する刑事。
 ほぼ取調室なので本当に登場人物がよく喋るのですが、会話の中にいくつも言葉遊び、謎解き要素が含まれている作品です。
 舞台は東京で、馴染みない地名がたくさん出てくるのですが、知っていて当たり前と言わんばかりに地名にルビがないのがやや辛いところでしたが同僚の危機や取調室での暴行など手に汗を握る展開が多々ある、減り張りのある作品だったと思います。
 
 また、倫理的な話というか、哲学的な部分で殺人について「仲間を殺してはいけない」「敵は殺せば英雄」「仲間ではない人間は敵か」などという話が出てきます。
 どこまでが仲間なのか。
 また命は平等と言われるが家族とホームレスの価値は平等かなどの問いが出てきたり、極限状態で日本人と外国人がいたらどちらを助けるかなど、倫理の授業で出てきそうな問いが多々登場します。
 本当に難しいところで自分が同じような質問をされたときに答えられるかというと悩んでしまう部分ですね。
 
 白い衝動でも非常に倫理的な問いを投げかけてきた作家さんなだけに惹き込まれていくのに後味がヘヴィな、ずっしりと重いものを残していくような一冊だったと思います。
 ハードカバーで読んでよかったと思う一冊でした。